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【第1部】 第16話 王子と姫①

last update Date de publication: 2025-06-29 17:01:16

 絶体絶命のピンチ!

 私は覚悟を決め、目を閉じた。

 そのとき、どこからともなく声がした。

「王子と……姫?」

 驚いた私達は、辺りを見回し声の主を探す。

 すると、暗がりからメイド姿の女性が姿を現した。

 紺色の上品な長袖ワンピースに白いエプロンをつけた、 昔ながらのメイドのイメージそのまま。

 ゆっくりとこちらへ近づいてくるメイドは、どこか儚げで暗い雰囲気を漂わせている。

 待って、こんなところにメイドってあり得なくない? 

 私は嫌な予感を抱きながら、彼女の足元へ目をやった。

 彼女の足は、薄っすらとしか見えず、透明だった。

 やっぱり……幽霊!?

「きゃーーーーー!!」

 私はヘンリーにしがみつく。

 ヘンリーは何も言わず、そのメイドの女性をじっと見つめていた。

「驚かせてしまい申し訳ありません。あなたたちが私の知っている人に似ていたので、つい声をかけてしまいました。

 しかし、どうやら人違いのようですね。

 そうですよね、もう生きているわけがないのに……」

 メイドは酷く悲しそうな顔をして俯いてしまう。

「王子と姫って?」

 ヘンリーは抱きつく私の頭を優しくよしよしと撫でながら、普通に幽霊と会話を始めた。

「……はい。私の仕えていた王子と、その恋人の姫様のことです。

 あなたたち二人にそっくりでした。

 本当に仲が良くて、お似合いで。二人は結ばれるものと思っていました。

 あの戦争が起こるまでは」

「戦争?」

「はい。同盟国だった二つの国は、些細ないさかいから戦争へと発展しました。

 王子と姫はある日突然、敵対する関係になってしまったのです。

 二人はなんとかできないかと奮闘しましたが、王子と姫という立場上、その御父上の王に敵うはずもなく、成す術もありませんでした。

 お二人はとうとう手を取り合い、駆け落ちしました。

 追っ手に追われ、追いつめられた二人は崖から落ちて、心中されました。

 ……私は悲しくて、辛くて、悔しかった。

 二人のことをずっと応援していました。いつか幸せなお二人の結婚式が見れると思っていたのに。

 無念で、死んだあともこうして彷徨っているというわけです」

 相手が幽霊ということも忘れ、私はその話に聞き入っていた。

 目頭が熱い。

 その王子と姫のことを想うと、私はなんだか胸が締め付けられた。

「僕と流華がその二人に、似てるんだよね?」

「はい」

「だったら、僕達が結婚式を挙げる姿を見たら、君は満足して成仏できるんじゃない?」

 はい? ちょっとヘンリー、何を言っているの?

 私がヘンリーを瞬き多めで見つめていると、ヘンリーが飛び切りの笑顔をこちらへ向けてきた。

「流華、ここで結婚式を挙げよう」

「え? どういうこと?」

 私が戸惑いぼーっとしている間に、ヘンリーはメイドに声をかける。

「メイドさん、あなたが牧師やって」

 唐突にそんな提案をされ、幽霊でさえついていけていない様子だ。

 呆けた顔で口を開けている。

 彼女は呆然としながらも、何とか答えた。

「は、はい」

 ヘンリーは私の真正面に立つと、私を見下ろした。

 また、私たちは至近距離で見つめ合うことになってしまう。

「じゃあ、はじめようか。……牧師さんから、スタート!」

 ヘンリーの元気な声と共に、勝手に幕が下りた。

 メイドは戸惑いながらも、ヘンリーの要望に応えようとする。

 私たち二人の側に立つと、小声で尋ねてきた。

「ええと……お二人の名前を、教えてください」

「ヘンリーと流華だよ」

 ヘンリーがニコニコと嬉しそうに答えると、メイドは深く頷いた。

 メイドはもう既に役に入り込んだのか、真剣な表情になり恒例のあのフレーズを口にする。

「新郎ヘンリー、あなたはここにいる流華を、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

 ヘンリーは私を熱い眼差しで見つめながら口を開く。

「はい、誓います」

 その瞬間、ザワッと音が聞こえたような気がした。

 見えない風が、私の体を包み込むように撫でていき、通り過ぎていったような感覚に陥る。

 心臓が段々と大きな音を立て始める。

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Commentaires (1)
goodnovel comment avatar
憮然野郎
ヘンリーと流華に重なるような王子と姫が、こんなにも切ない悲劇を背負っていたなんて……胸が締めつけられます... ふたりの幸せな式を目にして、あの王子と姫もようやく救われたのでしょうか?
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